Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
妻はうち砕かれた花のような笑みを浮べていた。……家へ戻ってから、ふと古びた小型のバイブルをとり出してみて、彼はハッとするのだった。それは彼が少年の頃、亡くなった姉から形見に貰ったものであった。二十年も前のことだが、死ぬ前、姉は県病院に入院していた。二度ばかり見舞に行って、それきり姉とは逢えなかったのだが、この姉の追憶はいつも彼を甘美な少年の魂に還らせていた。そういえば、彼が妻の顔をぼんやり眺めながら、この頃何かしきりに考えていたのはそのことだったのだろうか。静かな病室のなかで、うっとりと、ふと何か口をついて、喋りたくなりながら、口には出なかったのは、そのことだったのだろうか。
真昼の電車の窓から海岸の叢に白く光る薄の穂が見えた。砂丘が杜切れて、窪地になっているところに投げ出されている叢だったが、春さきにはうらうらと陽炎が燃え、雲雀の声がきこえた。その小景にこころ惹かれ、妻に話したのも、ついこのあいだのようだったが、そこのところが今、白い穂で揺れていた。薄は気がつくと、しかし沿線のいたるところにあった。電車の後方の窓から見ると、遙かにどこまでも遠ざかってゆく線路のまわりにチラチラと白いものが閃いた。