Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
ある朝、学校へ出掛けて行く彼は、電車の窓に迫って来る崖の上に、さわさわと露に揺れる丈高い草を刈り取っている女の姿を見た。崖下の叢もうっすらと色づいていた。それから間もなく、田のあちこちが黒いおもてを現して来た。刈あとの切株のほとりに、ふと大きな牛の胴を見ることもあった。時雨に濡れて、ある駅から乗込んだ画家は、すぐまた次の駅で降りて行った。そうした情景を彼もまた画家のような気持で眺めるのだった。
それから、ある午後、彼が教室で授業していると、ふと窓の外の方があやしく気にかかった。リーダーを持ったまま、彼は硝子窓の方へ注意を対けていた。ひょろひょろの銀杏の梢に黄金色の葉がヒラヒラしているのだ。あ、あれだろうか、……何とも名ざし出来ない、美しい透明な世界がすぐそこにあるようだし、それはひっそりととおりすぎてゆくのであった。
彼はそっと窓の方の扉をあけて、いつものベランダに出てみた。冷たい空気が頬にあたり、すぐ真下に見える鈴懸の並木がはっと色づいていた。と、何かヒラヒラするものがうごき、無数の落葉が眼の奥で渦巻いた。いま建物の蔭から、見習看護婦の群が現れると、つぎつぎに裏門の方へ消えて行くのだった。