Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

「遅くなりました」ふと目の前に津軽先生の姿が現れた。

「召集がかかりましたので」先生は笑いながら穏やかな顔つきであった。急に彼は眼の前が真暗になり、置きざりにされている感覚がまたパッと大きく口を開いた。誰か女のつれが向うの廊下からちらとこちらを覗いたようであった。

「インシュリンのことでしたね、あの薬はあなたの方では手に這入りませんか」

「まるで、あてがないのです」

彼は歪んだ声で悲しそうに応えた。その大きな病院でも今は容易にそれが得られなかったが、その注射薬がなければ、妻の病は到底助からないのであった。

「そうですか、それでは僕が出て行ったあとも、引きつづいて、ここへ取寄せるように手筈しておきましょう」

そういって先生はもう立去りそうな気配であった。彼はとり縋って、何かもっと訊ねたいことや、訴えたいものを感じながらも、押黙っていた。

「それでは失礼します、お大切に」先生は軽く頷きながら静かな足どりで立去ってしまった。

日が短くなっていた。病院を出て家に戻って来るまでに、あたりは見る見るうちに薄暗くなってゆき、それが落魄のおもいをそそるのでもあった。薄暗い病院の廊下から表玄関へ出ると、パッと向うの空は明るかった。