Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
まだ元気だった頃、一緒に旅をしたことがある、あの旅に出かける前の快活な身のこなしが、どこかに潜んでいるようにおもえた。綺麗好きの妻のまわりには、自然にこまごましたものが居心地よく整えられていたし、夜具もシイツも清潔な色を湛えていた。それらには長い病苦に耐えた時間の祈りがこもっているようだった。壁に掛けた小さな額縁には、蔦の絡んだバルコニーの上にくっきりと碧い空が覗いていた。それはいつか旅で見上げた碧空のように美しかった。
今にも降りだしそうな冷え冷えしたものが朝から空気のなかに顫えていた。電車の窓から見える泥海や野づらの調子が、ふと彼に昨年の秋を回想させるのだった。……一年前の秋、彼と妻の生活は二つに切離されていた。糖尿病を併発した妻は大学病院に入院したが、これからはじまる新しい療養生活に悲壮な決意の姿をしていた。その時から孤独のきびしい世界が二人の眼の前に見えて来たようだった。彼は追詰められた気分のなかにも何か新しく心が研がれて澄んでゆくようだった。それは多少の甘え心地を含んだ世界ではあったが、ぼんやりと夢のような救いがどこかに佇んでいるのではないかと思えた。