Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

……熱にうるんだ妻の眼はベッドのなかでふるえていた。

「こないだ、三階から身投げした女がいるのです。あなたの病気は死ななきゃ治らないと云われて……」

冷え冷えとした内庭に面した病室の窓から向側の棟をのぞむと、夕ぐれ近い乳白色の空気が硬い建物のまわりにおりて来て、内庭の柱の鈴蘭灯に、ほっと吐息のような灯がついていた。あのもの云わぬ灯の色は今でも彼の眼に残っているのだったが……。

だが、彼はつい先日その大学病院を訪ねて行って大先生に来診を求めたときの情景がまざまざと甦ってくる。看護婦が持って来た四五枚のレントゲン写真を手にして眺め入ったまま、大先生は暫く何も語らない。それから妻の入院中の診断書類を早目に一読していたが、

「それでは今日の夕方お伺いしましょう」と彼に来診を約束した。それから、大先生が来るということは彼の妻にとっては大変な期待となった。妻はわざわざ新しい寝巻に着替えて約束の時刻を待っている。彼は家の外に出て俥の姿を待った。冷えて降りだしそうな暗い空に五位鷺が叫んでとおりすぎる。そうして待ち佗びていると、ふと彼は遠い頼りない子供の心に陥落されていた。