Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
と、灯のついている彼の家の姿が、びしょ濡れの闇のなかにもすぐ描かれた。
「お母さん、お母さん」
今、目ざめたばかりの彼はふと隣室で妻のかすかな声をきくと、寝床を出て台所の方にいる母親に声をかけた。それから、その弱々しいなかにも何か訴えを含んでいる声にひきつけられて、彼は妻の枕頭にそっと近寄ってみた。妻の顔は昨夜からひきつづいている不機嫌な苛々したものを湛えていた。だが、それは故意にそうしている顔ではなく、何かもう外界の空気に堪えられなくなり、外界から拒否されたものの姿らしかった。瞼はだるそうに窄められ、そこから細く覗いている眸はぼんやりと力なく何ものかを怨じていた。
……一週間前に、妻は小さな手帳に鉛筆で遺書を認めていた。枕頭に置かれていたので彼も読んでそれは知っていた。けれども、それを認めた妻も読んだ彼も、ほんとうに別離が切迫したものとはまだ信じきれないようだったのだ。
昨日の夕方、電車を降りて彼が暗い雨のなかを急込んで戻ってくると、家には灯のついた病室が待っていた。彼は妻の枕頭に屈んで「どうだったか」と訊ねた。
「今日は気分も軽かったのに、お母さんがひとりでおろおろされるので何か苛々しました」