Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

枕頭に食べさしの林檎が置いてあった。林檎が届いたら、と長い間持ち望んでいたのだが、注文の荷が届いたときには、これはもう彼女の口にあわなくなっていたのだ。ふと、妻は指の爪で唇の薄皮をむしりとろうとした。

「どうしてそんなことをするのだ」

「…………」妻は無言で唇の皮を引裂いた。

……今、朝の光線で見ると、昨夜傷けた唇はひどく痛々しそうだった。やがて、母親が食膳を運んでくると妻は普段のように箸をとった。だが、忽ち悲しげに顔を顰めた。それから、つらそうに無理強いに食事をつづけようとした。殆ど何かにとり縋るようにしながら悶え苦しんで食事を摂ろうとする姿は見るに堪えなかった。これははじめて見る異様な姿だった。それから重苦しい時間が過ぎて行った。昼の食事は母親がいくらすすめても遂に摂ろうとしなかった。日が暮れるに随って、時間は小刻みに顫えながら過ぎて行った。

夕食の用意が出来て枕頭に置かれた。が、妻は母親のすすめる食事を厭うように、わずかに二箸ばかり手をつけるだけだった。電灯のあかりの下に、すべてが薄暗くふるえていた。食後の散薬を呑んだかとおもうと、間もなく妻は吐気を催して苦しみだした。