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Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

妻はまた氷を欲しがった。それからまた吐き気を催し、ぐったりとしていた。

「もう少しすれば夜が明けるよ」

かたわらに横臥して、そんなさりげないことを話しかけると、妻は静かに頷く。そうしていると、まだ妻に救いが訪れてくるようで、もう長い長い間、二人はそんな救いを待ちつづけていたような気もした。そして、これは彼等の穏やかな日常生活の一ときに還ってゆくようでさえあった。だが、ふと吃驚したように妻は胸のあたりの苦しみを訴えだした。その声は今迄の声とひどく異っていた。それは魔にうなされたように、哀切な声になってゆく。愕然として、彼も今その声にうなされているようだった。病苦が今この家全体を襲いゆさぶっているのだ。

彼が玄関を出ると、外は仄暗い夜明だった。どこの家もまだ戸を鎖していたが、町医のベルを押すと、灯がついて戸は開いた。医者は後からすぐ行くことを約束した。

家に戻って来ると、妻の苦悶はまだ続いていた。「つらいわ、つらいわ」と、とぎれとぎれに声は波打つようだった。彼はその脇に横臥するようにして声をかけた。

「外はまだ薄暗かったよ。医者はすぐ来ると云っていた」

妻は苦しみながらも頷いていた。