Japanische Klassiker mit Furigana
ja-reading.com
Lesen Sie japanische Klassiker online mit Furigana. Filtern Sie nach JLPT-Niveau, tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung und übersetzen Sie einen Satz.
なつのそうれつ
夏の葬列
山川 方夫
Lesen Sie 夏の葬列 (なつのそうれつ) von 山川 方夫 (やまかわまさお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 60.161 Zeichen · 122 Bildschirme
正面から彼をみつめる瞳には、何のわだかまりもなかった。
しばらく眸を合わせたまま、彼は、苗字をけんめいに思い出そうとしていた。でも、思い出せたのは、薄いベニヤ板に黒ペンキで書かれた、「好文社」という文字でしかなかった。それが、あの小さな貸本屋の名前だった。
まだ、いたるところに戦火の跡がみられた時代だった。中学生だった彼は、アルバイトのついでに本が読めるのをたのしみに、「好文社」の求人広告をみて入った。その店は学校の近くで、すると女主人の頼子は、ここから通ったらどう? といった。留守番がてらに。疎開先の彼の家からは、片道二時間もかけねば学校に通うことができなかった。
ときどき、頼子は彼を食事にさそってくれたりした。戦災を免れた彼女の邸は、店のすぐ近くにあった。彼女は未亡人のようだったが、でもその夫は戦争では左脚に傷をうけただけで無事に帰還し、いまは事業の建て直しのため大阪と東京で半々の生活を送っていて、頼子は旧華族の娘だという近所の噂だった。
バラックの貸本屋の屋根裏、二畳ほどの彼にあたえられた部屋の中に、ふいに頼子があらわれたのは、その年の秋、停電の夜半だった。