Japanische Klassiker mit Furigana
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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Lesen Sie 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.681 Zeichen · 22 Bildschirme
此処にはこの朝倉忠左衛門最後まで踏み止って、火の手と闘いますでございましょう」
「危いよ、爺や、一緒に逃げてはどうだ」
若君の伊予守忠弘は、手を取らぬばかりに勧めましたが、朝倉忠左衛門は頑として頭を振り、若くて元気な小者数人を号令して、襲いかかる焔の壁に取り組んで居ります。この時伊予守忠弘の左右に従った者は僅かに青侍と御女中が二三人、それも雨の如く降る火の子に追われて、夕景過ぎ川の岸にポツンと立っているのは、伊予守たった一人になってしまいました。
雪模様の鉛色の空に、江戸の大半を焼く紅蓮の焔が照り返して、梨地の様に降りしきる火の子、それを辛くも袖で払いながら、カッと左右から焼き立てられる火勢を避くるともなく忠弘は、真っ黒な水のほとりに近々と立っていたのです。
「ちょいと御武家様」
「――――」
どこからともなく、柔かくて静かで、そして愛撫するような声が聴えます。地獄絵巻のような凄まじい環境――死物狂いの絶叫と、焔の咆哮と、雪片に交る火の粉の渦巻の中に、それはまたなんという、そぐわない、優しい声でしょう。
「御武家様、そこではお危うございます、宜しかったら――本当に宜しかったら、こちらへお出でなさいませ」