Japanische Klassiker mit Furigana
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あひるとさる
寺田寅彦随筆集 第五巻
寺田 寅彦
Lesen Sie 寺田寅彦随筆集 第五巻 (あひるとさる) von 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 194.515 Zeichen · 389 Bildschirme
十四 おはぐろ
自分たちの子供の時分には既婚の婦人はみんな鉄漿で歯を染めていた。祖母も母も姉も伯母もみんな口をあいて笑うと赤いくちびるの奥に黒耀石を刻んだように漆黒な歯並みが現われた。そうしてまたみんな申し合わせたように眉毛をきれいに剃り落としてそのあとに藍色の影がただよっていた。まだ二十歳にも足らないような女で眉を落とし歯を染めているのも決して珍しくはなかった。そうしてそれが子供の自分の目にも不思議になまめかしく映じたようである。
今でもおはぐろのにおいを如実に思い出すことができる。いやなにおいであったがしかしまた実になつかしい追憶を伴なったにおいである。
台所の土間の板縁の下に大きな素焼きの土瓶のようなものが置いてあった。ふたをあけて見ると腐ったような水の底に鉄釘の曲がったのや折れたのやそのほかいろいろの鉄くずがいっぱいはいっていて、それが、水酸化鉄であろうか、ふわふわした黄赤色の泥のようなものにおおわれていた。水面をすかして見ると青白い真珠色の皮膜を張ってその膜には氷裂状にひびがはいっているのであった。晩秋の夜ふけなどには、いつもちょうどこの土瓶のへんでこおろぎが声を張り上げて鳴いていたような気がする。