Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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こはるのきつね

小春の狐

泉 鏡花

Lesen Sie 小春の狐 (こはるのきつね) von 泉 鏡花 (いずみきょうか) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.102 Zeichen · 27 Bildschirme

Aozora Bunko

一

朝――この湖の名ぶつと聞く、蜆の汁で。……燗をさせるのも面倒だから、バスケットの中へ持参のウイスキイを一口。蜆汁にウイスキイでは、ちと取合せが妙だが、それも旅らしい。……

いい天気で、暖かかったけれども、北国の事だから、厚い外套にくるまって、そして温泉宿を出た。

戸外の広場の一廓、総湯の前には、火の見の階子が、高く初冬の空を抽いて、そこに、うら枯れつつも、大樹の柳の、しっとりと静に枝垂れたのは、「火事なんかありません。」と言いそうである。

横路地から、すぐに見渡さるる、汀の蘆の中に舳が見え、艫が隠れて、葉越葉末に、船頭の形が穂を戦がして、その船の胴に動いている。が、あの鉄鎚の音を聞け。印半纏の威勢のいいのでなく、田船を漕ぐお百姓らしい、もっさりとした布子のなりだけれども、船大工かも知れない、カーンカーンと打つ鎚が、一面の湖の北の天なる、雪の山の頂に響いて、その間々に、

「これは三保の松原に、伯良と申す漁夫にて候。万里の好山に雲忽ちに起り、一楼の明月に雨始めて晴れたり……」

と謡うのが、遠いが手に取るように聞えた。――船大工が謡を唄う――ちょっと余所にはない気色だ。