Japanische Klassiker mit Furigana
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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
Lesen Sie 尾崎士郎短篇集 (あきかぜとはは) von 尾崎 士郎 (おざきしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.032 Zeichen · 216 Bildschirme
もう四月も終りにちかづいて、銀座裏の酒場では「まだおそくはない」という叛乱軍の兵士に呼びかけた師団長の言葉が女給の殺し文句に変ってひとしきり流行っていたが、情熱に彩られた青年たちの幻像はようやく民衆の記憶からうすれかけようとしていた。丈吉の取調は延びのびになって、憲兵隊に呼び出されたのは間もなく梅雨期に入ろうとする頃で、しかし、それも一応の形式を整えるだけのものにすぎなかった。一日で取調が終ると彼はそのまま元の留置場へつれ戻されたが、同じことが何べんとなくくりかえされているうちに病弱な彼の肉体はじりじりと衰ろえていった。はじめのあいだはときどき差入れにゆく多吉に、このつぎはうなぎ飯、そのつぎは天丼と好きな註文をならべていたが、外の形勢が変ってくるにつれてだんだん自由が許されなくなり、多吉が面会に行っても無駄足を踏むことが多く、五月も終りにちかづこうとしているのに憲兵隊からの呼出しは来なかった。何とかして都合をつけて一ぺんだけ会いに来てくれという丈吉の言葉を多吉が伍一につたえたのは七月のはじめであったが、それから二、三日経って伍一が多吉といっしょに出かけてゆくとすぐ高等視察室に通され、しばらく待っていると五ヶ月ぶりで見る丈吉が歩くのも大儀そうな足どりで入ってきた。