Japanische Klassiker mit Furigana
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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
Lesen Sie 尾崎士郎短篇集 (あきかぜとはは) von 尾崎 士郎 (おざきしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.032 Zeichen · 216 Bildschirme
「何か言っていた?」
と、訊くと、
「ええ」
口ごもった彼の顔がぼうっと赤くなった。「鰻が喰べたいというんですが」
「鰻を――?」
「前に僕が届けてやったことがあるんで、そいつを思いだして」
街へ出ると伍一はだまって電車の停留場まで歩き、丈吉に差入れをするための金をわたしてから一ぺん自分の家へかえろうという多吉とわかれたが、その夜、一時すぎまで机に向って仕事をしていると、しずまりかえった街の方から串本ぶしを唄う声が聞えてきたかと思うと乱れた下駄の音が次第に彼の家へちかづき、耳をすますと多吉の声になった。夜中に酔ってかえってきた多吉に敲き起されることも前にはたびたびあったが、こんなに大びらに唄をうたってくることはめずらしい。伍一が不快そうに顔をしかめたとき、女中がやっと起きたらしく格子戸をガタガタとゆすぶりながら錠をはずしているらしい気配がしたが、外にいる多吉はそんなことには無頓着で、「可愛いお前のあですがた」と、同じ文句を何べんとなくくりかえしながら門の潜り戸のあくのを待っていた。伍一は妙な胸さわぎを覚え、階下がしいんとなるまで机の前にじっとしていたがやがてそっと立ちあがると、表に向いている雨戸をあけた。