Japanische Klassiker mit Furigana
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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
Lesen Sie 尾崎士郎短篇集 (あきかぜとはは) von 尾崎 士郎 (おざきしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.032 Zeichen · 216 Bildschirme
そのとき、事務室には最早誰れもいなかったので兄の言葉が途切れるごとに、湯のたぎり(沸)すぎた鉄瓶の鳴る音が救われようのない静寂を唆り立てていた。
父の膝の前には、前面に細かな線が縦横に交錯している少し厚ぼったい帳面がひろげてあった。それが局の出納簿であることを感ずると、わたしの足は凍りついたようになった。――
「お前一人だけじゃないぞ! 一体どうなると思うんだ。ひどい。ひどい」
その声にわたしはどきっとした。それは父の声ではなくて兄の声である。わたしは呼吸の切迫してくるのを圧えることができなくなった。わたしは今まで兄がこういう調子で父に対して物を言っていたのを聞いたことがないのだ。それだけではない、あの頑固一徹の父がこれほどにまで意気地なく立ちすくんでいるのをわたしは始めて見たのだ。父はしばらく身動きもしなかったが、やがて懐ろの中から鼻紙をとりだし烈しく洟をかんだ。瞬間、彼の横顔がちらっとわたしの視線をかすめた。彼は眼を瞑じ、下唇を噛みしめていた。それは必死になってある一つの感情を堪えている人のようであった。――
その情景は今でもありありと眼の前にうかんでくる。