Japanische Klassiker mit Furigana
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やまぶきちょうのさつじん
山吹町の殺人
平林 初之輔
Lesen Sie 山吹町の殺人 (やまぶきちょうのさつじん) von 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.530 Zeichen · 37 Bildschirme
不意に、何か容易ならぬことを思い出したものと見えて、男はすっくと起(た)ちあがった。そして、まるで弾機(ばね)をかけられた人形のように、非常な敏捷さをもって活動しはじめた。長火鉢の抽斗(ひきだし)、鏡台の抽斗、それから戸棚の抽斗を次々にあけて、隅から隅まで、併(しか)し、非常にすばやく彼はしらべはじめた。それがすむと、室内をきょろきょろ見まわしながら、何べんも行ったり来たりして何物かを探している様子だったが、そのうちに、ひとりでに弾機(ばね)がゆるんだような工合(ぐあい)にばったり活動をやめて、茫然と部屋の真中に棒立ちになったまま太い吐息を洩らした。目的物はとうとう見つからなかったらしい。
男はもう一度屍体のそばに跪(ひざまず)いて、前と同じように被害者の顔のそばへ自分の顔を寄せて、そっと頬と頬とをすりあわせていたが、やがて、力一ぱい女の顔を自分の頬におしつけた。死人を相手にしてのこれ等(ら)の凡(すべ)ての動作は、全くの沈黙のうちに行われたのであった。
やがて男は、受持の役割を無事にすまして舞台裏へ退場する俳優のように、落ちつき払って玄関の間(ま)へ出て、帽子をかぶり、玄関に腰をかけて靴を穿(は)こうとした。