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Japanische Klassiker mit Furigana

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あいのごとく

愛のごとく

山川 方夫

Lesen Sie 愛のごとく (あいのごとく) von 山川 方夫 (やまかわまさお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 103.908 Zeichen · 210 Bildschirme

Aozora Bunko

町まではまだ距離があった。額をガラス板につけて、信二は窓の外に目を落していた。ヘッド・ライトに照らされ、道を片側によける一人の女が目に入った。信二は呼吸をのんだ。「黒の女」だった。眩しそうに手をかざして、見上げる女の目がひかった。女の外套はグレイだった。今にもバスが停り、彼女がのりこんできてそばに立つ。ぼくの横に坐る。一瞬のうちに信二はそう空想した。だが、バスは速度をかえなかった。酔った女の卑猥なハミングと兵士の馬鹿笑いをのせ、バスは過ぎて行った。首をねじ向けて彼は窓のうしろをみた。女の佇立した姿はすぐ闇のなかにかくれた。「……ああ」と彼はいった。ひくい声は音にならなかった。

信二は、かつてそれほどのはげしい空白を意識したことがなかった。空白は彼の横の席にあった。一人分あいた茶革のシートは、揺れているバスの明りをひっそりとうかべている。彼はそこに、はたされなかった自分の痛切な希望を見る気がした。そこに来てもらいたかった。その空間を彼女のしなやかな感触で填めたかった。彼は、虚脱したようにシートの背にもたれた。

銀鈴の鳴りつづけるような空白が彼を充たしていた。