Japanische Klassiker mit Furigana
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あるおんな
或る女
有島 武郎
Lesen Sie 或る女 (あるおんな) von 有島 武郎 (ありしまたけお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.981 Zeichen · 295 Bildschirme
木村が自分の良人であるのは、自分が木村の妻であるというほどに軽い事だ。木村という仮面……葉子は鏡を見ながらそう思ってほほえんだ。そして乱れかかる額ぎわの髪を、振り仰いで後ろになでつけたり、両方の鬢を器用にかき上げたりして、良工が細工物でもするように楽しみながら元気よく朝化粧を終えた。ぬれた手ぬぐいで、鏡に近づけた目のまわりの白粉をぬぐい終わると、口びるを開いて美しくそろった歯並みをながめ、両方の手の指を壺の口のように一所に集めて爪の掃除が行き届いているか確かめた。見返ると船に乗る時着て来た単衣のじみな着物は、世捨て人のようにだらりと寂しく部屋のすみの帽子かけにかかったままになっていた。葉子は派手な袷をトランクの中から取り出して寝衣と着かえながら、それに目をやると、肩にしっかりとしがみ付いて、泣きおめいた彼の狂気じみた若者の事を思った。と、すぐそのそばから若者を小わきにかかえた事務長の姿が思い出された。小雨の中を、外套も着ずに、小荷物でも運んで行ったように若者を桟橋の上におろして、ちょっと五十川女史に挨拶して船から投げた綱にすがるや否や、静かに岸から離れてゆく船の甲板の上に軽々と上がって来たその姿が、葉子の心をくすぐるように楽しませて思い出された。