Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あるおとこのしゅき

或る男の手記

豊島 与志雄

Lesen Sie 或る男の手記 (あるおとこのしゅき) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 43.279 Zeichen · 86 Bildschirme

Aozora Bunko

それかと云って私は、何も君子然たる心境に到達したわけではない。頭の中にはいろんな妄想が、以前と同じように去来するのだった。云わば性慾そのものが、肉体を離れて頭の中だけに巣くったようなものである。そして一時私は、頭の中だけでいろんな女性を探し求めて、精神的に彷徨し続けたこともあった。然しそういう空しい幻はやがて崩壊してしまって、私は非常に虚無的な気持へ陥っていった。それから漸く辿りついたのは、性慾の蔑視ということだった。単に性慾ばかりではなく、肉体に関する一切のものの蔑視だった。凡て肉体に関するものは、一時的で皮相で無価値なものだと思った。この思想は一夫一婦主義の家庭生活とよく調和した。私は若い女性と一緒に談笑しても平気だったし、時折不道徳な行いをしても、自ら良心に咎める所が少しもなく、それを妻に隠したのは、ただ妻から小言を喰わないためにばかりだった。妻と一つの生活――この一つの生活というのに力点を付して――一つの生活をしている、という意識さえしっかりしていれば、下らない肉体的な過失くらいは取るに足らない、そう思って私は、どんなことをしても危険を殆んど感じなかった。