Japanische Klassiker mit Furigana
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あるおとこのしゅき
或る男の手記
豊島 与志雄
Lesen Sie 或る男の手記 (あるおとこのしゅき) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 43.279 Zeichen · 86 Bildschirme
何もかも打捨ててしまって、お前と勝手気儘な放浪の生活をしてもいい。僕にはそれが、何だか新らしい本当の生活のような気もする。何処に行こうと自由だ。何をしようと自由だ。お前さえ承知してくれるなら……。」
「じゃあ一人でそうなすったがいいわ。」
私は立止って振向いた。彼女は両肱をぐったりと卓子にもたせて、毒々しい軽侮の眼付で私を見ていた。
「お前は、僕を憎んでるね。」
「憎んでやしないわ。もう誰も怨んでも愛してもいないわ。ただ……。」
「え?」
「自分が憎いだけ。」
ぶっきら棒に云ってのけて、突然、彼女ははらはらと涙をこぼした。私は呆気にとられて、その涙をぼんやり眺めていたが、不思議にぱっと一切のことが明るくなった。私は眼がくらむような気がして、椅子の上に身を落した。
「そうだったのか。やはりお前は……。」
彼女はぎくりとして涙の顔を上げた。
「やはり松本君を愛してるのだろう。」
そして私は惹きつけられるように彼女の眼に見入った。その眼は黝ずんでじっと据っていたが、私から徐ろに菊の花の方へ移ると、俄かにぎらぎらと輝いてきた。
「じゃあ私が松本さんを愛してるとしたらどうすると仰言るの? また愛していないとしたら、どうすると仰言るの?」