Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Lesen Sie 新書太閤記 (しんしょたいこうき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 186.659 Zeichen · 372 Bildschirme

Aozora Bunko

「意気地のない――」

と、団扇で膝の蚊を追って、

「無限じゃよ、芸術の野は。……ただ、行き暮れるなよ」

「行き暮れそうです。さきほど先生のつぶやかれた、権門に筆を売るのはいやだと仰っしゃったようなことも」

「おまえには、まだ分るまい。――そちは、まだまだ、慾をもって描けばいい。慾で描け、慾で描け」

「と、おっしゃいますのは」

「うまい物を食いたい、よい女子をもちたい、よい屋敷に住みたい、位置、名声を揚げたい、人によくいわれたい。――そうした慾望を仕事の張り合いにもつがよい。わしがさっきいったのは、その平凡を卒業した後の慾をいったのじゃ」

「すこし分りました」

「あまり分ってくると、何事にも、熱が欠けてくる。そうなっても、契情のたかい人を、真の画人というのじゃろうな。……お、話に、身がいって、気がつかなんだ。山楽」

「はい」

「たれか、門を、訪れておりはせぬか」

山楽は、庭越しの枝折戸のほうへ、耳をすまして、

「ほんに」

と、急に、師のまえを退がって、住居の入口から出て行った。

「どなたですか?」

枝折戸の内で、山楽は、明けないうちに、内からたずねた。

女の声で。

「こちらは、狩野永徳様のお住居でございましょうか」