Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
」
と笑うと、そのとき急に大きな声を出し始めた向うの、激論している日本人の方をびっくりした風に振り返った。
「何に云ってるのかしら。あれ。」
「議論だ、面白いよなかなか。」
矢代は頭を後ろへ反らし議論嫌いの千鶴子のびっくり顔をさも楽しそうに見ながら、あまり千鶴子と仲良くない真紀子に頼み込む難しい方法をあれこれと考えた。這入って来る客の雨外套から垂れる滴で床の斑点が拡がって来た。窓ガラス一面に浮んだぶつぶつの露が重さに耐えかねて蛇のように下って来る。パリ党とベルリン党とは疲れる様子もなく、ついにはパリのマロニエの美しさとベルリンの菩提樹の美しさとの云い合いまでに及んで来ると、マロニエの下で飲む葡萄酒、菩提樹の下で傾けるビールの美味と云った風に、転転と議論は移り変っていって尽きなかった。もうどちらも恋いこがれているひたすらな情熱で、眼の色まで変っているその様は、日本の知識階級を抽象したそっくりそのままの現れのように矢代には見えた。このようになれば国粋主義者の怒り出すのは道理であると彼は思い、それでもなおそのまま我慢をじっとしている民衆の底の義理人情という国粋が、も早や国粋の域を脱したただならぬ精神の訓練の美しさのように矢代には見え始めて来た。