Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
矢代は観台から降りて下の絵画館へ休みに這入った。そこは百畳敷ほどの楕円形の部屋でモネー館と云われている。周囲の壁には全面を余さず円形に沼に浮かんだ睡蓮の絵が満ちていた。一人の人もいない森閑としたその部屋の中央に、ただ一つ褐色の革張りの小さなベンチが置いてある。そこに二人は並んで腰を降ろすと、丁度沼の中の留木にとまった二匹の蛙のように自分が見え、どちらを向いても眼のゆくところ人影の一つも見えぬ連った睡蓮の沼だった。
「ここは疲れたときにはいいのね。どうしてこんなところ御存知?」
千鶴子はより添うように矢代に近づいたまま、周囲の沼と青青とした静けさを楽しみ眺めつづけて訊ねた。
「僕は街を歩いて疲れるとここへ来て、このベンチへ一人ひっくり返って寝てるんですよ。いつも人のいたことはないんだ。この絵はパリの黄金期にいたモネーが描いたんですが、実に写実的な緻密なものですね。いかにも池の中に自分がいると思うからな。」
「そうね。何んだか日本の山の中にいるような気がするわ。よくこんなところ、奈良にあるじゃありませんか。」
「そうだ。奈良だここは。」
矢代は半身を横にしながら肱をついた。