Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

郷里へも先日初めて帰られ、御先祖のお墓参りをされました。わたくしは東京で生れたせいか、自分の故郷がどこだか分りません。お兄さんはパリに行かれ、東京を故郷と思われましたよし、まことに自分のことのように嬉しく思いました。これでわたくしの家では、ただ一人わたくしだけが、ふらふらしている人間かと思いますと、悲しゅうございます。それでも、もうお帰りになるのかと思いますと、それまでに病気もよくなっていたいと、朝夕心こめてお待ちしております。波の音が午後になると、いつもここの海岸は高くなります。この海の向うにいらっしゃるのね。――

箱根の山の見える海ぎわに、夕日のさしている風景が矢代の頭に浮んだ。そして、そこの下でまだ療養している妹の寝姿を思い急に心は曇ったが、手紙をポケットにしまい込むと、毎朝の日課のルクサンブールの公園の中へ這入っていった。樹の幹の間に落ちている日光の斑点の中で聖書を読みつつ歩いて来る若い牧師の華奢な両手――その指の間から閃く金色の聖書の頁が矢代の眼を強く刺して来た。

日ごとに蕾を開いてふくれて来る大輪の黄薔薇の傍を通り、芝生の中の細い砂を踏んで歩くうちに、矢代は不意に千鶴子と今日でもうお別れだと思った。