Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
矢代はただ事ではない父の容体を感じ、
「お父さん、お父さん。」
と耳もとでそう二言つづけて呼んでみた。しかし、色のない耳朶の裏が寂しく見えるだけで、もう父は返事をしなかった。彼は全身に滝の落ちかかって来るような重い戦慄を覚えた。そして、
「お父さん。」
とまた大きく呼んだが、やはり同じだった。液は口から吐いたものと見えて畳の上に多量流れていた。素人目にも脳溢血の疑い確実だったので、彼は父の体を動かさないようにしてすぐ母を呼びに行こうと思って父の手頸を執ってみると、もう脈も響かず瞳孔も開いていた。万事駄目だとだけ直覚され、彼は膝をついたままそこから動けなかった。小机の上の置時計の針が丁度二時を指していた。父が寝室へ立っていったさい、襖に一寸手をかけた後姿を眼にしたのが、最後の父の姿だった。それまでどちらもその別れさえ知らずにいたのだと、ちらっと瞬間思ったばかりでぼんやり彼は端坐をつづけていた。
「どうしたんです。」
母が暫くして入って来た。すると、急に何も云わなくなった母は何ぜだか勝手の方へまた戻った。矢代は父の亡骸から離れると、医者の来るまで父を動かさない様に母に頼み、云うべきことは今はそれだけにして外套を着て外へ出ていった。