Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

雪は路に降り積っていた。彼は歩きながらも、一大事が起っているのに何か間の抜けた気持ちで、身体の中に一つ大きな空洞の生じたのを感じ、まだ見たこともない冷え冷えとしたものが、徐徐にそこを満している緊張を覚えるばかりだった。

足駄の歯の間に雪が溜り込んで膨れ、彼は片膝をついて一寸倒れた。急いだとてもう遅いと分っていてもやはり彼は急いで歩いた。すると、母が父の鼾の高さを嫌って別室で眠っていた習慣が、俄に腹立たしくなって来た。が、一人今ごろ周章えている母の姿を思うとそれも気の毒になって来るのだった。

二時を過ぎているのに病院の玄関にはまだ灯が点いていて、着替えてもいない医者がすぐ出て来た。そして、矢代の話す父の容態を良く聞きもしないうちに、

「今さきも同じ患者さんがあって、帰って来たばかりですよ。お天気が激変しましたからね。」

と云うとまた医務室へ這入った。雪で自動車の動かぬ弁解も少しあったが、それでも医者は彼と一緒に雪の中を歩いて来てくれた。

家では父の吐物がもう片付けられ、蒲団から乗り出した父の頭の下に別の蒲団も継ぎ足して敷いてあった。仏壇や神棚に灯明も上げられた明るく変った家の中で、母は覚悟あるらしいひき緊った顔に戻っていた。