Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
「それはありがとう。」
と矢代は礼を云ったものの、久慈の値より負けられたとあっては自然に食事の費用で補いたくなるのだった。アンリエットは若芽色の皮の手袋をはめ、
「あたしの発音法はこれでまだ完全じゃないのよ。パリの人の発音はたいていはまだ駄目。やはり、一度ギャストンバッチの女優学校へでも這入って、正規の発音を習わなきゃ、信用出来ないわ。」
このパリの高い文化でさえがそうなのかと矢代は驚いた。
「そういうものですかね。しかし、日本にも日本語の完全な発音なんかどこにもないですよ。東京の者だって、つまりは東京の方言を使っているんですからね。」
アンリエットは先に暗い螺線形の階段を降りて行った。後から矢代は降りるのだが、自然に眼につくアンリエットの首の白さも人知れず眺める気持ちは、不意打ちを喰わせるように感じられ彼は幾度も眼を転じた。しかし、螺線形の狭い階段は降りても降りても変化がなかった。絶えず眼につくものは階上からつづいて来たアンリエットのなだらかな首ばかりでありた。しかも、巻き降りている階段は長いので撃たれたように前に下っている首筋は、見る度びに眼のない生ま生ましい顔のように見え、矢代はだんだん呼吸の困難を感じて来るのだった。