Japanische Klassiker mit Furigana
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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
Lesen Sie 日本婦道記 (にほんふどうき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.170 Zeichen · 22 Bildschirme
五
靱負は絶望のあまり時々はげしく死を思うようになった。
それは遽かに涼風の立ちはじめる中秋九月の或る夜半のことであった。靱負はひじょうに重苦しい夢をみて覚めると、えたいの知れぬ力でたぐり込まれるように「今だ、今だ」と思い、手を伸ばして枕頭の刀を取ろうとした。すると殆んど同時に、彼のうしろで云いようもなく悲痛な絶叫がおこり、暴あらしくじだんだを踏む音が聞えた。靱負は殴りつけられたように振返った、そこにはおかやが立っていた。恐怖のために顔はひき歪み、双つの眼はとび出すかと疑えるほど大きく瞠かれていた、その眼で靱負をひたと覓めながら、おかやは「ああ、ああ」と意味をなさぬ声をあげ、激しく身悶えをした。
「おかや、……」靱負は水を浴びたような気持でそう呟いた、「……おかや、おまえか」
五
靱負はその夜かぎりもはや死を思うようなことはなかった。恐怖にひき歪んだおかやの顔を見たとき彼はおのれの思量の浅はかさを知ったのである。人間にとって大切なのは「どう生きたか」ではなく「どう生きるか」にある、来し方を徒労にするかしないかは、今後の彼の生き方が決定するのだ、――そうだ、死んではならない、ここで死んでは今日までのおかやの辛労を無にしてしまう。