Japanische Klassiker mit Furigana
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はえ
日輪 春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Lesen Sie 日輪 春は馬車に乗って 他八篇 (はえ) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 6.478 Zeichen · 14 Bildschirme
「お母ア、馬々。」
「ああ、馬々。」
六
「おっと、待てよ。これは悴の下駄を買うのを忘れたぞ。あ奴は西瓜が好きじゃ。西瓜を買うと、俺もあ奴も好きじゃで両得じゃ。」
田舎紳士は宿場へ着いた。彼は四十三になる。四十三年貧困と戦い続けた効あって、昨夜漸く春蚕の仲買で八百円を手に入れた。今彼の胸は未来の画策のために詰っている。けれども、昨夜銭湯へ行ったとき、八百円の札束を鞄に入れて、洗い場まで持って這入って笑われた記憶については忘れていた。
農婦は場庭の床几から立ち上ると、彼の傍へよって来た。
「馬車はいつ出るのでござんしょうな。悴が死にかかっていますので、早よ街へ行かんと死に目に逢えまい思いましてな。」
「そりゃいかん。」
「もう出るのでござんしょうな、もう出るって、さっきいわしゃったがの。」
「さアて、何しておるやらな。」
若者と娘は場庭の中へ入ってきた。農婦はまた二人の傍へ近寄った。
「馬車に乗りなさるのかな。馬車は出ませんぞな。」
「出ませんか?」と若者は訊き返した。
「出ませんの?」と娘はいった。
「もう二時間も待っていますのやが、出ませんぞな。街まで三時間かかりますやろ。