Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
襖一つ隔てて直ぐその次にある納戸へも行って見た。そこはおせんが鏡に向って髪をとかした小部屋だ。彼女の長い着物や肌につけた襦袢なぞがよく掛っていたところだ。
何か残っている物でも出て来るか、こう思って、大塚さんは戸棚の中までも開けて見た。
そうだ、おせんは身に覚えが無いと言って泣いたりしたが、終には観念したと見え、紅く泣腫した顔を揚げて、生家の方へ帰れという夫の言葉に随った。そんな場合ですら、彼女は自分で自分の身のまわりの物をどう仕末して可いかも解らなかった。殆んど途方に暮れていた。夫の手伝いなしには、碌に柳行李一つ纏めることも出来なかった。見るに見兼ねて、大塚さんは彼女の風呂敷包までも包み直して遣った。車に乗るまでも見て遣った。まるで自分の娘でも送り出すように。それほど無邪気な人だった。
納戸から、部屋を通して、庭の方が見える。おせんが出たり入ったりした頃の部屋の光景が眼に浮ぶ。庭には古い躑躅の幹もあって、その細い枝に紫色の花をつける頃には、それが日に映じて、部屋の障子までも明るく薄紫の色に見せる。どうかすると、その暖い色が彼女の仮寝している畳の上まで来ていることも有った。