Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
御着になって四日目のこと、旦那様と御一緒に長野へ御出掛になりました。奥様は御留守居です。私は洋傘と御履物を揃えまして、御部屋へ参って見ると、未だ御仕度の最中。御客様は気短い御方で、角帯の間から時計を出して御覧なすったり、あちこちと御部屋の内を御歩きなすったりして、待遠しいという風でした。その時、私は御客様と奥様と見比べて、思当ることが有ましたのです。御客様は丸い腮を撫で廻しながら、
「婆さんもね、早く孫の顔を見たいなんて、日常その噂さばかりさ。どうだね、……未だそんな模様は無いのかい」
奥様は俯いて、御顔を紅らめて、御返事をなさいません。やがて懐しそうに、
「御父さん、羽織を着更えていらッしゃいよ」
「なに、これで結構。こりゃお前上等だもの」
「それでもあんまりひどい」
「この羽織は十五年からになりますがね、いいものは丈夫ですな」
御客様は袖口を指で押えて、羽翅のように展げて見せました。遽に思直して、
「こうっと。面倒だけれど――それじゃ一つ着更えるか」
と御自分の御包を解いて、その中から節糸紬の御羽織を抜いて、無造作に袖を通して御覧なさいました。
「あれ、其方のになさいよ」