Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
私が井戸端で御主人の蔭口を利いて、いらざる事を言触らして歩いたと御話しなさいました。それから、又、私が我儘に成ったことから、或時なぞは牛乳配達の若い男が後から私の首筋へ抱着いたところを見たものがあると御話しなさいました。もうもう私の増長したのには呆れて了った、到底私のような性の悪い女は奥様に役えないということを御話しなさいましたのです。
私は全身耳でした。
「何だ、そんな高い声をして――聞えるじゃないか」と言うのは旦那様の御声。
「否、使に行って居りませんよ」
「その話は今止そう。私は非常に忙しい身だ。これから直ぐに銀行へ出掛けなくちゃならないんだ。……なにしろ、そんな者には早く暇をくれて了うがいい」
と言捨てて、旦那様は御立ちなさる御様子。
私は呆れもし、恐れもしました。油断のならぬ世の中。奥様のあの美しい朱唇から、こんな御言葉が出ようとは私も思掛ないのです。浅はかな、御自分の罪の露顕する怖しさに、私を邪魔にして追出そうとは――さてはと前の日の夢の御話も思当りました。私は表へ飛出して、夢中で雪道をすたすたと歩いて、何の買物をしたかも分らない位。風呂敷包を抱〆て、口惜しいと腹立しいとで震えました。