Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
九時には帽子を冠って、前垂掛で銀行へ御出掛になる。御休暇の日には御客様を下座敷へ通して、御談話でした。尋ねて来る御客様は町会議員、大地主、商家の旦那、新聞屋、いずれも土地の御歴々です。御晩食の後は奥様と御対座、それは一日のうちでも一番楽しい時で、笑いさざめく御声が御部屋から泄れて、耳を嬲るように炉辺までも聞える位でした。その時は珈琲か茶を上げました。
思えば結構尽の御暮です。私は洋燈の下で雑巾を刺し初めると、柏木のことが眼前に浮いて来て、毎晩癖のようになりました。吾等の賤しい生涯では、農事が多忙しくなると朝も暗いうちに起きて、燈火を点けて朝食を済ます。東の空が白々となれば田野へ出て、一日働くと女の身体は綿のようです。ある時、私は母親と一緒に疲れきって、草の上に転んでいると、急に白雨が落ちて来た、二人とも起上る力がないのです。汗臭い身体を雨に打たれながら倒れたままで寝ていたことも有ました。その時に後で烈い熱病を煩って死ぬ程の苦をいたしました。農家の女の労苦はどれ程でしょう――麦刈――田の草取、それから思えば荒井様の御奉公は楽すぎて、毎日遊んで暮すようなものでした。