Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
と眼鏡を出した方は仔細らしく。
「驚きましたねえ」とその隣の方が引取って、
「こんなに能く見えるのかなア。ハハハハ、こりゃ眼鏡を一つ奢るかな」
終には旦那様も釣込れて、
「拝借」と手を御出しなさいました。
一人の御客様が笑いながら渡しますと、旦那様も面白そうに鼻の上へ載せて、活版刷の紙を遠く離したり近く寄せたりして御覧でした。
「懸けた工合は……どうですな」と渡した方が旦那様の御顔を覘くようにして尋ねる。
「や、こりゃ能く見える。これを懸ければすっかり読めます」
「ハハハハハ、酷いものですなア」
「ハハハハハ」
と旦那様も手を拍って大笑い、一人の御客様は目から涙を流しながら、腹を抱えて笑いました。終には皆さんが泣くような声を御出しなさると、尖った鼻の御客様は頭を擁えて、御座敷から逃出しましたのです。
私も旦那様がこれ程であろうとは思いませんでした。人程見かけに帰らない者はありません。これから気を注けて視ると、黒髪も人知れず染め、鏡を朝晩に眺め、御召物の縞も華美なのを撰り、忌言葉は聞いたばかりで厭な御顔をなさいました。殊に寝起の時の御顔色は、毎も微し青ざめて、老衰えた御様子が明白と解りました。