Japanische Klassiker mit Furigana
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はる
春
岡本 かの子
Lesen Sie 春 (はる) von 岡本 かの子 (おかもとかのこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 23.864 Zeichen · 48 Bildschirme
三
京子はお民の針差から細い一本の絹針を抜いた。蠅の背中へ京子は針をしゅっと刺した。小さな蠅は花粉のような頭をしばらく振って死んでしまった。京子はしげしげそれを見つめて居た。そしてまた一方の手にそれを持ち代えて見つめて居たが、涙をほろほろとこぼして独言に言った。
――可哀そうに――死んで、親のところへ行くがいいのよ。
三
京子はその後、毎日午後になると玄関傍の格子戸をそっと開けては誰かの来るのを待った。――先日来た制服の大学生の来るのを待つのだった。昨日も、一昨日も、今日も明日も来よう筈がなかった。それでも京子は来るものと定めて居た。とうとう来なかった。一週間目の夕方から京子はひどく不機嫌に憂鬱になった。脇目にもはっきりとそれが判った。加奈子はお民と一緒に京子の部屋へ詰め切りで、何かと京子の気に向く事をしてやった。が、京子は蓄音機も加奈子の三味線も、カルタ遊びも、本を読んで貰うことも気に入らなかった。京子はむっつりとして菓子も果物も食べなかった。
――早く寝たい。
それがいっそ好かろうと、京子の言うなりに寝床へ入れてやることにした。加奈子は昼着よりも尚好い着物を京子の寝巻きに着せてやるのが好きだった。