Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

Lesen Sie 春いくたび (はるいくたび) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 70.094 Zeichen · 142 Bildschirme

Aozora Bunko

お糸は土間へころげ落ちた。

そして、入口の引戸へ体をたたきつけた、するとつき出ていた釘がふっと腕へ刺さった、天のたすけである。お糸は手首の縄を、そのとがった釘のさきへごしごしこすりつけた。

――神さま、神さま!

心はただ神を念ずるばかりである。縄はかたかった、釘はなんどもすべって手首の皮をつきさした。……進軍の物音はどんどん遠くなる、お糸は胸いっぱいにさけんだ。

――神さま、お糸の命を差上げます、どうか天子様の軍隊をおまもり下さい。お糸の命は差上げます、神さま!

死力をつくしたかいがみえた。

縄はふつりと切れた。お糸は夢中で両手をふりほどくと、手早く足の縄もとき放しながら小屋の外へとび出した。

――しめた。

広場に人夫とみえる男が四、五人、馬の背へ残りの荷物をしばりつけているところだ。

お糸は走った。

そして篝火の中から、燃えている松を一本ぬきとると、まだ、荷をつけてない一頭の馬へ、いきなり飛び乗った。――積荷で夢中だった人夫たちがそれと気づいて、

「あ、誰だ」

「――曲者!」とわめきたてたときは、もう蹄の音も高く砦の外へと、はしりだしていた。

走った! 走った!