Japanische Klassiker mit Furigana
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はるいくたび
春いくたび
山本 周五郎
Lesen Sie 春いくたび (はるいくたび) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 70.094 Zeichen · 142 Bildschirme
……お気の毒なことに頭を悪くしておいでだそうで、そのお供さんともはぐれ、此処まで来て病気におなりなすったのでございますね」
「それはお気の毒な……」
月心尼がそう頷いたとき、その老人が不意に床の上へ起き直った。……あまり突然だったので、月心尼も老婆もあっと胸を衝かれた。
「ああ見える」
老人は大きな眼を瞠りながら叫んだ、「……錦の御旗が、……砲煙の向うに、槍や刀がきらきらと光っている向うの方に、朱い朱い、美しい錦の御旗が見える」
「若し、……若し、どうなされました」
月心尼は急いで側へ寄った。「……心をお鎮めなされませ、此処は甲斐国の田舎町でございます、戦はもう昔のことでございますよ、大砲も刀も槍も此処にはないのですよ」
老人は振返って彼女を見た。……なんの色もない、虚ろな眼であった。彼はまじまじと月心尼の顔を見戍っていたが、やがて寂しそうに首を振りながら云った。
「なにか、云ったのですね。……失礼でした、すっかり頭が狂っているものだから。……自分でも訳の分らぬ言を云うのです、時々。……恐らくまたあの戦の時のことを申したのでしょう」
「戦争でお怪我をなすったのですね」