Japanische Klassiker mit Furigana
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はるいくたび
春いくたび
山本 周五郎
Lesen Sie 春いくたび (はるいくたび) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 70.094 Zeichen · 142 Bildschirme
「――しずかに、あわててはいけません」
「はい」
「これをきて、この笠をかぶって」
やみのなかで、男はすばやく若菜に簑をきせ笠をかぶらせると、
「おちついてください、足もとに気をつけて」
そういって手をひきながら牢屋の外へ出た。
なぐりつけるようなはげしい雨と風だった。若菜は男のみちびくままにむちゅうで歩いた、石塁にそっていくたびかまがり、柵へくるとかねてつくってあったらしいぬけ口からくぐり出た。
「――あなたは、どなたですの」
若菜はそこまできてやっとそうきいた。
「私は大村から隠密としてこの砦へはいっていた者です、――こっちへきてください、馬が用意してありますから」
「どうしてわたくしが牢屋にいたのをごぞんじですの?」
だん!
だん!
とつぜん、すさまじい銃声がおこった。
「――城ぬけだっ」
「みんな出ろ、城ぬけだ――」
烈風をぬってよびかわす声がきこえた。
「いけない、みつけられました」
男は若菜をつきとばすようにして走った。そして馬のつないであるところへくると、すばやく若菜をおしのせ、自分ももう一頭の馬にまたがると、くつわをならべて走りだした。
このあいだに城兵は松火をかかげ、石塁の上に銃口をそろえて、いっせいにねらいうちをはじめた。