Japanische Klassiker mit Furigana
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しゅんせつ
春雪
久生 十蘭
Lesen Sie 春雪 (しゅんせつ) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.672 Zeichen · 23 Bildschirme
四月七日の霜柱の立つ寒い朝、滝野川で浸礼を受けた帰り、自分にはいままで幸福というものがなかったが、いま、ささやかな幸福が訪れてくれるらしいというようなことをいった。それが、柚子の人生におけるただ一度のよろこびの言葉であった。
「あれだけが、せめてもの心やりだ」
池田は機械的にスプーンを動かして、生気のないポタージュを口に運びながら、つぶやいた。
そのころ、池田の会社では、青梅線の中上へ、何千とも数えきれない未完成の飛べない飛行機を集め、ローラーですり潰す仕事をやっていた。板塀で囲われた広い原は、見わたすかぎり、残骨累々たる飛行機の墓場で、エンジンにロープを巻きつけ、キャタピラが木の根ッ子でもひき抜くようにして一角へ集めるあとから、山のようなスチーム・ローラーが潰して歩く。どこを押しても、航空機はもう一機も出来ない。戦争はヤマが見えていた。四月五日の空襲の夜、柚子がこんなことをいいだした。
「日本が、いま戦争をしているというのは、ほんとうでしょうか」
日本は戦争をしているが、いまはもう、半ば擬態にすぎないことを、池田は知っている。現に池田の会社では、飛行機をすり潰すという、意味のない作業を仕事らしく見せかけ、兵隊は、防空壕を掘ったり埋めかえしたりする仕事を、くりかえしているだけだった。