Japanische Klassiker mit Furigana
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つきのまつやま
月の松山
山本 周五郎
Lesen Sie 月の松山 (つきのまつやま) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 20.451 Zeichen · 41 Bildschirme
と道円は云い、初めて孝也を見た、「それに、私がそう診たてたというだけで、診たては医者によっても違うし、人間の躯というやつはときどき思いがけない変りようをするものですからな、まあいちおう、そのつもりでいてもらう、ということです」
「ほかにはもう、なにか」
云いかけて孝也は黙った。道円が彼を見た。孝也は首を振った。
「いや」と彼は口を濁した、「ではもう、あの薬を塗るだけでいいのですね」
「痛みがひどくなったら、そのほうの薬を調合しましょう」と道円が云った、「また変ったことがあったら来てみて下さい」
孝也は礼を述べて立ちあがった。あとから道円が送って来た。明るい二月の陽の溢れている庭に、紅梅がしんと咲いていた。
「まだ梅が咲いていますね」と孝也が云った。
「あれはばか梅で」と道円が云った。
辞去して門の外へ出ると、非常な力で緊めつけられるように胸が苦しくなり、呼吸が詰って、われ知らず孝也は喘いだ。
「覚悟していた筈じゃないか」と彼は呟いた、「覚悟していたんだろう、だらしがないぞ孝也」
彼は立停って空を見あげた。よく晴れた空に、白い綿雲が幾つか浮いていた。孝也の眼はそれを見ながら、なにも見てはいなかった。