Japanische Klassiker mit Furigana
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つきよのあとさき
月夜のあとさき
津村 信夫
Lesen Sie 月夜のあとさき (つきよのあとさき) von 津村 信夫 (つむらのぶお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 1.719 Zeichen · 4 Bildschirme
お婆さんのような丈夫な足なら、すぐ行かれるよと云うと、老婆はいかにも嬉しそうに相好を崩した。
私の宿った坊では、月夜の晩にはきまって蕎麦を打った。
蕎麦は更科と云うけれども、信州蕎麦のほんとに美味しいのはこの戸隠飯綱の原を中心とするあたりで、この地方に多い麻畑は刈りとってしまった後は、みんな蕎麦畑になるのである。
山の月をみるためには、畳を敷いた坊の廊下に、薄や吾木香が供えられた。
蕎麦を打つのは、家内総出であって、少年と雖ども心得ている。もっとも、少年少女の場合は、蕎麦打ちを手伝うひまに、こっそり蕎麦粉を盗んで、あたかも粘土細工のように牛や犬の動物を作ったり、鳥居をこさえたりするのが、楽しみなのである。蕎麦の玩具は戸隠の子供部屋の雛様である。
坊の娘が片方の手に蕎麦を入れたザルを持ち、一方の手にお膳を持って、月のいい晩にやってきた。
「お蕎麦がおいやなら、こちらに御飯も御座います」
蕎麦は色が黒いが、口触りがまことによい。山中の夜はそれを口にすると、何かひやりとした感触がある。
娘はいつも着物を長目にきるので、歩くたびに、かすかな衣ずれがする。書院作りの広い間を二つ三つ通りすぎて行く足音は、まるで燭の火で足もとを見つめて行く、昔の人のそれのようである。