Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

Lesen Sie 桑の木物語 (くわのきものがたり) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 39.815 Zeichen · 79 Bildschirme

Aozora Bunko

「自分の玩具だと思ってやがる、世話あねえや」

そのころからのことだが、正篤の噂がときどき耳にはいった。武家の客たちの話すのも聞いたし、世間にも評判好きな者がいて、少し珍しいことがあると自分のことのように触れまわるから、坐っていてもしぜんいろいろなことが聞けた。――正篤は名君という噂であった、藩治に多くの功績をあげ、領民に慕われるばかりでなく、幕府のおぼえもいいらしい、躯も健康で、武鑑にはもう三人の子が載っていた。

――名君、あのときの信さんが、名君。

悠二郎はほのかに懐旧のおもいにとらわれた。しかしすでに遠い思い出であり、もはや自分には縁のないひとであった。悠二郎は高い空をわたる風の音でも聞くような、一種の虚しいおもいで、そっと溜息をつき、窓の外へ眼をやった。

勇吉の三つの年にまた女の子が生れた。

「おっ母さんよりよっぽど功者だぜ」

仙吉はよろこんで、やっぱりつならびだと、こんどはお初と名をつけたが、自分はその年の夏のはじめに、急性の腸を病んで亡くなった。

――ひどい痛みを伴う下痢で、しまいには赤いものを下したりして、ほんの十日ばかりのあっけない死にかただった。