Japanische Klassiker mit Furigana
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さくらのみのじゅくするとき
桜の実の熟する時
島崎 藤村
Lesen Sie 桜の実の熟する時 (さくらのみのじゅくするとき) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 111.569 Zeichen · 222 Bildschirme
彼はその心地から言いあらわし難い恐怖を感じた。
七月らしい夏の雨が寄宿舎の窓へ来た。荷物を片付けて寄宿舎を離れようとしていた青年等はいずれも遽かに夕立の通過ぎるのを待った。
明治もまだ若い二十年代であった。東京の市内には電車というものも無い頃であった。学校から田辺の家までは凡そ二里ばかりあるが、それ位の道を歩いて通うことは一書生の身に取って何でも無かった。よく捨吉は岡つづきの地勢に添うて古い寺や墓地の沢山にある三光町寄の谷間を迂回することもあり、あるいは高輪の通を真直に聖坂へと取って、それから遠く下町の方にある家を指して降りて行く。その日は伊皿子坂の下で乗合馬車を待つ積りで、昼飯を済ますと直ぐ寄宿舎を出掛けた。夕立揚句の道は午後の日に乾いて一層熱かった。けれども最早暑中休暇だと思うと、何となく楽しい道を帰って行くような心持に成った。何かこう遠い先の方で自分等を待受けていてくれるものが有る。こういう翹望はあだかもそれが現在の歓喜であるかの如くにも感ぜられた。彼は自分自身の遽かな成長を、急に高くなった身長を、急に発達した手足を、自分の身に強く感ずるばかりでなく、恩人の家の方で、もしくはその周囲で、自分と同じように揃って大きくなって行く若い人達のあることを感じた。