Japanische Klassiker mit Furigana
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さくらのみのじゅくするとき
桜の実の熟する時
島崎 藤村
Lesen Sie 桜の実の熟する時 (さくらのみのじゅくするとき) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 111.569 Zeichen · 222 Bildschirme
表門のくぐり戸を開けて、田辺とした表札の横に、海老、橙、裏白、ゆずり葉などで飾った大きな輪飾りの見える門の前を先ず掃き清めた。楽しそうな追羽子の音は右からも左からも聞えて来ていた。捨吉は門の内にある格子戸の前の敷石の上を掃いた。それから庭の方へ通う木戸を開けて、手にした箒を茶の間の横の乙女椿の側へも持って行き、築山風な楓の樹の間へも持って行き、すっかり葉が落ちて幹肌のあらわな梧桐の根元のところへも持って行った。横浜の店の繁昌と共に、東京の方で留守居するお婆さんや姉さんの許へは楽しそうな正月が来ていた。捨吉はそのお婆さん達の居る奥座敷の前から、飛石に添うて古い小さな井戸のある方までも掃いて行った。冷たい冷たい汗が彼の額を流れて来た。
本二冊、それに僅かな着更えの衣類を風呂敷包にして、捨吉は夕方の燈火の点く頃に黙って恩人の家を出た。
夕闇にまぎれて捨吉は久松橋を渡った。人形町の通りを伝馬町まで歩いて行って、岡見の店の横手にある木戸の前へ行って立った。
清之助――岡見の弟は、庭下駄を穿いて出て来て自分で木戸を開けてくれた。清之助は例の茶の間で捨吉を待っていてくれた。