Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

Lesen Sie 桜の実の熟する時 (さくらのみのじゅくするとき) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 111.569 Zeichen · 222 Bildschirme

Aozora Bunko

娘と共に養子の主人を助けて過ぐる十年の間の苦労した骨折を取返すのはこの時だという意気込を見せていた。

捨吉はちょっと面喰った。お婆さんや姉さんと玉木の小母さん夫婦との間に板みにでも成ったように感じた。大人同志のあらそいを避けて、誰も居ないようなところへ走って行きたい。そこで叫びたい。この心持は何とも名のつけようの無いものであった。彼は自分の内部から湧いて来るもののために半ば押出されるようにして、隅田川の水の中へでも自分の身体を浸したいと思付いた。

「お婆さん、一寸僕は大川端まで行って参ります。一寸行って泳いで参ります」

こう言って出た。

暑い日あたりの中を捨吉は走るようにして歩いて行った。水泳場の方へ通い慣れた道を取り、二町ばかり行って大川端の交番のところへ出ると、そこから兄の下宿も見える。河岸に面した二階の白い障子も見える。一寸声を掛けて行くつもりで訪ねると兄は留守で、奥の下座敷の方に女の若い笑声なぞも聞えていた。

「岸本さんは浜の方へお出ましで御座います」

この下宿のおかみさんの返事で、兄は商用のために横浜の商館の方へ出掛けたことが知れた。岸の交番のならびには甘酒売なぞが赤い荷を卸していた。