Japanische Klassiker mit Furigana
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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
Lesen Sie 桜島・日の果て・幻化 (さくらじま) von 梅崎 春生 (うめざきはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 169.810 Zeichen · 345 Bildschirme
判っていることは、自分が今原隊を離れて遁走しているという事実だけであった。しかしそれも遂行し終せたわけではない。今からでも花田を射殺する決心になれば、そして何食わぬ顔をして原隊に戻れば、誰も知るものはない。高城が知って居るとしても、彼も宇治を追って来たからには、逃亡を意図したという点で同罪である。人に洩らす気づかいはないのだ。しかし高城は果して一緒に逃げるつもりで彼を追って来たのか。何故あの時涙をいっぱい溜めていたのか。何故あの病兵を殺したがったのか。何もかも判っているようで、考えれば彼には何もかも判らないことばかりであった。
(俺は一体何の為に此の密林の中をとぼとぼ歩いているのだろう?)
荒涼たる疑念が何の連関もなく彼の胸を衝き上げて来た。……
「歌が聞えます」
高城がうしろから宇治に声をかけた。宇治は立ち止って耳を澄ました。幽かではあったが宇治の耳にもその声は聞えて来る。首を廻して高城の方を見ながら彼は独語のように言った。
「聞える。あれはイロカノの歌だ」
「旅団司令部です」
落着いた低い声で高城がそういった。唇をきっとしめているので、高城の顔は何か思いつめた表情に見えた。