Japanische Klassiker mit Furigana
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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
Lesen Sie 榎物語 (えのきものがたり) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 33.519 Zeichen · 67 Bildschirme
おすげの頭はそのことでいっぱいらしい。その話が終ると、まるで貝が蓋を閉めでもするように、自分の中へとじこもってしまうのであった。しかし一度だけ、さわの身の上を知りたがったことがあった。どこの生れか、うちはどこか、家族はあるのか、なんのためにこんなことをしているのか。さわはこれまでみんなに云ったとおり、家族といっしょに旅をしていて、あの山津波にあい、自分ひとりだけ生き残ったこと。故郷は江戸の近くであるが、そこには親類も少ないし頼りにはならないこと。この土地には親やきょうだいの骨が埋まっているから、まだはなれる気持がないのだ、というふうに。
「でもいつかはくにへ帰るんでしょ」
「いつかはね」
「それで越重の若旦那をふってるの」
「ふってるなんて」さわは苦笑した、「もともとむりな縁談なのよ、あたしにはあんな大きなお店の切り盛りをするような才もなし、そんな柄でもないわ」
「わけはただそれだけ」
さわは頷いて云った、「それだけと云ってあなた一生のことですもの、誰だって考えないわけにはいかないでしょ、人間はお金や家柄より大事なものがあると思うわ」
おすげは溜息をつきながら、自分もそう思う、とぼんやりした口ぶりで云った。