Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 148.519 Zeichen · 296 Bildschirme
と答えて去った。するといれちがいに、堀内惣左衛門がはいって来た。
「どうした」と甲斐が訊いた。
「中黒達弥が切腹しようとしております」
「達弥が」
甲斐は眉をあげた。すると額に深く皺がよった。惣左衛門が云った。
「矢崎がみつけて押止めましたが、どうしても腹を切らなければならぬ、武士のなさけだ、切らせてくれと申してききません」
甲斐は筆を措いた。
「ここへ伴れて来てくれ」と甲斐は云った、「力ずくでもいいから伴れて来てくれ」
惣左衛門は去った。
丹三郎が茶道具を持って来た。甲斐はそれを膝の前へひきよせ、静かな手つきで、自分で茶を淹れた。丹三郎がさがると、惣左衛門につきそわれて、中黒達弥がはいって来た。彼は袷の着ながしに、無腰で、髪毛が乱れ、蒼ざめた硬い顔をしていた。
「堀内はさがってくれ」と甲斐は云った、「呼ばぬうちは誰も来ないように、丹三郎も小屋へさがるように云ってくれ」惣左衛門は承知して去った。
甲斐は静かに茶をすすった。かなり冷える夜で、壁のどこかにかねたたきが一匹、それから床下に二匹ばかりのこおろぎが、とぎれとぎれの声で、互いに、なにかを嘆き交わすかのように、ほそぼそと鳴いていた。