Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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はるはばしゃにのって

機械・春は馬車に乗って

横光 利一

Lesen Sie 機械・春は馬車に乗って (はるはばしゃにのって) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 77.492 Zeichen · 156 Bildschirme

Aozora Bunko

ともかく高次郎氏は最初の私の家の隣人となって、暮のおし迫ったころ樹木の多い伯爵家の庭の中から明るい茶畑の中の自分の家へ移って来た。高次郎氏が足を延ばせば壁板から足の突き出そうな、薄い小さな平家(ひらや)だった。私は傍を通るたびに、中を注意したがる自分の視線を叱(しか)り反(かえ)して歩くように気をつけたが、間もなく周囲に建ち並んで来るにちがいない大きな家に押しつめられ氏の家の平和も破れる日が来るのではないかと心配になることもあった。

朝家を出るとき敷島を口に咥(くわ)え、ひらりと自転車に乗るときのゆったりした高次郎氏の姿を私の見たのは一度や二度ではなかった。また細君のみと子夫人が、背中の上の方に閂(かんぬき)のかかった薄鼠色の看守服の良人を門口まで送って出て、

「行ってらっしゃい。行ってらっしゃい」

と高くつづけさまに云って手を振り、主人の見えなくなるまで電柱の傍に立ちつくしている姿も、これも雨が降っても雪が降っても毎朝変らなかった。私の家内もこの新しい隣家の主婦の愛情の細やかさが暫(しばら)くは乗りうつったこともあったが、とうてい敵ではないとあきらめたらしくすぐ前に戻った。