Japanische Klassiker mit Furigana
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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 武州公秘話 (ぶしゅうこうひわ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 107.572 Zeichen · 209 Bildschirme
と思うよりも、「あ、顔を見られた」と云う極まりの悪さが先に立った。事実を云うと、公は往年夫人の閨へ通いつゞけた夜な/\、餘所ながら此の奇態な顔を隙見させて貰っては快感に浸っていたので、今日が始めてなのではないが、当人はそれを知る筈がないから、鼻が缺けて以来秘し隠しに隠し通して来たものを、今自害しようとする矢先に運悪くも敵に見られたと思うと、日頃の用心が水の泡になった恨めしさやら口惜しさやらで、全く憂鬱になってしまった。彼は何よりも家名を汚すことを恐れた。どうせ自分は父祖の偉業を亡ぼした不束な子であるから、その申訳に腹を切るのは覚悟の前であるけれども、迂濶に此処で死んだら、きっと自分の首は輝勝の手に渡るであろう。そしてそれが衆人の眼に曝され、あわれ織部正殿はあんな態をして生きていたのだと云われたら、自分の耻辱は忍ぶとしても、父祖代々の武名に傷がつくことをいかにして防ぎ得られよう。そう考えると、彼には兎角の分別もつかないのであった。生きる訳にも行かないが、と云って、此のまゝでは死ぬにも都合が悪い。夫人を殺したら、醜骸を跡へ残さぬように火中へ飛び込んで焼け死のうと云う積りでいたのに、首を取られては彼の世へ行っても親父に合わす顔がない。